も、進歩の頂点がある。実際、近頃の探偵小説を見るに大抵どれもこれも題材ががよく似ておって、これはと思う新奇な材料は少いのである。それ故今後の探偵小説家はどうしても筋の運び方、材料の取り方に新機軸を出すより外はないであろう。
 こんな理窟を並べると何だか擽《くすぐ》ったいような気持になるから、柄《がら》にないことはまあこれ位にして、さて「二銭銅貨」はどの点が優れているかというに、読者の既に読まれた如く、その巧妙《インジニアス》な暗号により、只管《ひたすら》に読者の心を奪って他を顧みる遑《いとま》をあらしめず、最後に至ってまんまと背負《しょい》投を食わす所にある。丁度ルブランの「アルセーヌ・リュパンの捕縛」を読んだ気持である。銅貨のトリックは外国の探偵小説からヒントを得たのであるかもしれぬが、点字と六字の名号とを結び付けた手腕は敬服の外はない。この点は地下のポオも恐らく三舎を避くるであろう。由来日本語を表わす暗号には巧妙なものが少く、この暗号は正に従来作られた暗号中の白眉と言ってよかろう。その他筋の運び方、描写の筆致など、どの点にも間然する所がない。ただ暗号の文字を八字ずつ[#「八字ずつ」
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