毎日一度は探偵小説を読まねば気が済まぬという自分に、「二銭銅貨」のような優れた作を見せて下さった森下さんは、その功徳だけでも、兜率天《とそつてん》に生れたまうこと疑なし。碌《ろく》に読めもしない横文字を辿って、大分興味を殺《そ》がれながら、尚おかつ外国の探偵小説をあさっていたのも、実は日本にこれという探偵小説がなかったからである。ところが「二銭銅貨」を読むに至って自分は驚いた。「二銭銅貨」の内容にまんまと一杯喰わされて多大の愉快を感じたと同じ程度に日本にも外国の知名の作家の塁を摩《ま》すべき探偵小説家のあることに、自分は限りない喜びを感じたのである。「一班を以て全豹を知る」ということは総ての場合に通用すべき言ではないが、こうして見ると日本にも隠れたる立派な作家があることがわかった。否、まだ外にもあるに違いないということが推定された。それ故、「新青年」の編輯者が、かかる隠れたる作家を明るみへ出そうと企てられたことに自分は満腔《まんこう》の賛意を表するのである。
 芸術の鑑賞と批評――などと鹿爪《しかつめ》らしく言うのも烏滸《おこ》がましいが、優れたる探偵小説なるものは誰が読んでも面白いも
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