なかったならば、とにかく、もう一度読んで御覧なさるがよい。但し、そのあげくに、「愛好」の域をとおりこして、探偵小説の「病みつき」になられたとて、私は責任は持たないつもりである。
 欧米の探偵小説にも、暗号や、双生児の犯罪や、夢遊病を取り扱った作品は決して、少くはない。然るにそれが、江戸川兄の手によって、「二銭銅貨」となり、「双生児」となり、「二癈人」となると、到底外国人では描くことの出来ぬ東洋的な深みと色彩とを帯んで、丁度日本刀のニオイを見るような、奥床しい感じをそそられるのである。単にそればかりでなく、「恐ろしき錯誤」、「赤い部屋」、「心理試験」になると、その水の滴らんばかりの日本刀で、ずばりと首を切られた味だ。まさにこれ、「電光影裏截春風」の形であって、到底欧米人には味い得ない味だといっても敢て過言ではあるまいと思う。
 探偵小説は理知の文学であるから、ことによると読者の中には、江戸川兄の作品を解剖して、そのどの部分に私が感服するかと質問する人があるかも知れない。しかしながら、日本刀のニオイを顕微鏡を以て研究して見ても、ニオイの味はさっぱりわからぬと同じく、いかに理知の文学でも、こ
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