を渡ろうとしたが渡船が出なかったので、ジャーセー市まで歩いた。しかし、ここでも船は出なかったため、やむなく宿泊するに至った。だからメリーの死体は母親の目にもペインの目にも触れなかった訳で、ただその衣服によって、メリーだということが鑑別された。
 死体を最初に発見した紳士たちは、彼女が宝石類を身につけていなかったことを誓った。しかも、彼女はたしかに宝石を身につけて、家を出たらしいのである。なお又紳士たちは、紐も縄も死体には巻かれてなかったといったので、この点バーンスの記載と頗《すこぶ》るちがっているけれども、どちらが本当であるかは、今になって知る由もない。
 彼此《かれこれ》するうちに、ここに新らしいセンセーションが起った。それは何であるかというに、以前ナッソー街一二九番地に住んでいたモース(小説ではマンネエ)という木彫師が犯人嫌疑者として逮捕されたことである。彼はマッサチューセット州ウースターから七マイル離れた西ボイルストンで八月九日に逮捕されたのであって、その前数日間というもの、彼は仮名のもとにその辺をうろついていた。逮捕される前、ウースターの郵便局でニューヨーク発の彼宛ての手紙が発
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