、品物は犯人が偶然残して置いたのであるように推定しているからである。このことは昨年の三月二十七日発行の「ゼ・デテクチヴ・マガジン」にボドキン判事によって指摘され、同氏は、この自家撞着があるために、この作品に対する期待を打ち壊されてしまったと言っている。
なお又、ウエルス女史が指摘したように、裾から腰の辺まで裂かれた布片《きれ》が、マリーの腰のまわりを三重に巻くということも彼の論理的の矛盾ということが出来るのであって、実際に死体を発見した人たちが、死体には紐も縄も見られなかったと証言したところを見ると、このこともポオの空想から生み出された「事実」といってよいかも知れない。
いずれにしても、かような論理的の矛盾――ボドキン判事やウエルス女史の指摘した点及び、第一回失踪と第二回失踪との間の時日に関する点などが――この小説に発見されるということは、「マリー・ロオジェ事件」が、必ずしもメリー・ロオジャース事件を説明するもので無いと断言し得るのであって、ポオが推理の材料とした「事実」がまた必ずしも真実でないことを想像し得るのである。
して見ると、ポオがこの物語の一八五〇年版に附加した脚註(こ
前へ
次へ
全34ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング