の文の最初に掲げた)はデフォーがしばしば用いた手段と同じように、読者の感興を深からしめるための方策に過ぎないといっても差支ないと思われる。
以上のような訳で、メリー・ロオジャース殺害事件なるものは、厳密に言えば犯人が如何なる種類の人間であったかということのみならず、何処で殺害が行われたかということさえわからぬ謎の事件なのである。
四、探偵小説としての「マリー・ロオジェ事件」
マリー・ロオジェ事件は、もとより探偵小説であって事件の記録ではないが、その中に前節に述べたような論理的矛盾のあるということは、探偵小説としても幾分の感興が薄らぐ訳である。然《しか》るに、この小説を読んでいると、ヂュパンの明快な議論と、その歯切れのよい言葉に魅せられて、どうかすると、これらの論理的矛盾に気がつかないのは、偏《ひとえ》にポオの筆の偉大なことを裏書きするものであるといってよい。実際、探偵小説を愛好される読者は、恐らくこの小説を読んで、多大の興味を覚えられるにちがいないと思う。
ポオがこの物語を綴るに至った動機が何であるかはもとより知る由もないが、警察の無能に憤慨して筆を取ったというより
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