男と一しょだったという見証とがあったからである。無論前にも述べたごとく、これらの見証は頗る怪しいものであるが、仮りにそれを是認するならば、ポオの推定したように一人に殺されたとした方が理屈に合うようである。しかし当時の人達は格闘した形跡の発見を基として一団の人達に殺されたと信ずるものが多かったのである。ポオの文章の中に、
「まず手初めに検屍に立ちあった外科医の検案なるものが出鱈目《でたらめ》なものだということをちょっと言っておこう。それにはただこれだけのことを言っておけばよいのだ。あの外科医が下手人の数について発表している推定なるものが、パリーの第一流の解剖学者たちによって、不当な、全然根拠のないものだとして一笑に附せられているということをね」
とあるところを見ると、検屍に立ちあった医師までが犯人の多数説を建てたと見える。しかし、このことも、恐らく前に述べたようにポオの空想から生れた「事実」であろうと思われる。
そこで次に、ポオはこの世間の説を反駁するために、
「まあ、格闘の形跡なるものをよく考えて見よう。一体この形跡は何を証明するというんだと僕は訊ねるね。それは一団の悪漢のしわざで
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