二回目の仮定の駈落ちとの間に経過した時間は、アメリカの艦隊の一般の巡航期間よりも数ヶ月多いだけだということだ」と書いているところを見ると、やはり三年半と見てのことであるらしい。して見ると海軍士官をマリーの恋人と見るのは頗るおかしく、従って色の浅黒いことや、帽子のリボンの「水兵結び」なども、事件の真相から眺めて見れば一種のこじつけ[#「こじつけ」に傍点]になって来るのである。もっとも、海軍士官云々の説は六月二十四日のメルキュール紙の「昨夕発行の一夕刊新聞は、マリー嬢が、以前に合点のゆかぬ失踪をしたことがある事件に言及しているが、彼女が、ル・ブラン氏の香料店にいなくなった一週間、彼女が若い海軍士官と一しょにいたのであるということは周知の事実である。この海軍士官は有名な放蕩者であった。幸にして、二人の間に仲たがいが起ったために、マリーは帰るようになったのだと想像されている」という記事を根拠としたものであろうけれど、夕刊新聞には、第一回の失踪の原因について、マリーも母親も、田舎の友達のところへ遊びに行ったのだといっているに反し、メルキュール紙が、「海軍士官と一しょにいたことは周知の事実である」
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