なっているのだ。駈落ちでないとしても、それは自分だけしか知らない或る目的のためだ。そのためには、どうしても、はたから邪魔されたくない――あとから追っかけて来ても、それまでに行方をくらましておけるだけの時間の余裕をこさえておかなくちゃならない――だから自分はドローム街の伯母さん(ブリーカー街の従姉)のとこへ行って一日じゅう遊んで来るってみんなのものに告げておくことにする――サン・チュースターシュ(ペイン)には、暗くなるまで迎えに来ちゃいけないって言っとく――そうすれば、できるだけ長い間、誰にも疑われず、誰にも心配かけずに家を留守に出来るというものだ。時間の余裕をこしらえるにはそれが一番いい方法だ。サン・チュースターシュに暗くなってから迎いに来て下さいって言っておけば、あの人はきっとそれまでに来る気遣いはない。だけど、迎いに来てくれとも何とも言わずにおけば、自分の逃げる時間の余裕が減って来る勘定だ。何故かっていうと、皆んなの者は自分がもっと早く帰ると思って、自分の帰りが少しでもおくれると心配するからだ……」
マリーの精神分析はこのように精細を極めているけれども、これによって、殺害の秘密は
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