ではニューヨーク・ブラザー・ジョネーザン紙)の「死体はマリーに非《あら》ず」という議論は、恐らく、ポオが議論するために仮に設けたのではあるまいかと疑って見たくなる訳である。
発見された死体の状態の記述がこのように区々《まちまち》である以上、たとい死体がマリーであることに疑ないとしても、彼女がどんな風な殺され方をしたかということを、死体の状態から判断することは不可能である。従って私たちは、死体を離れて、注意をホボーケンに向け、もって彼女の死の真相を推察しなければならぬのである。
ところが、前に記したように、ホボーケンで、彼女を見たというロッス夫人やアダムスの証言は決して断定的のものではない。又森の中で発見されたというマリーの所有品の記述も、どこまでが本当であるかを知るに由ないのである。従ってポオの、犯人は一人であって、悪漢たちの仕業《しわざ》でないという結論も容易に賛成することが出来ないのである。ポオはメリーの第一回の失踪が海軍士官と一しょであったことから、海軍士官が犯人だろうと推定し、メリーの心を想像して次のように書いている。
「……自分は或る人と駈落ちの相談をするために会うことに
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