く信頼すべき事実に拠《よ》って書かれたものだとはバーンスも思わなかったであろう。して見ると真実であるかとも思われる。けれど、もとより絶対に信を措《お》く訳にはいかぬのである。
三、事件の真相
以上が、メリー・ロオジャース殺害事件に関する事実の主要なるものであって、これらの僅少な事実からして、事件の真相を判断することは到底不可能のことである。
ことに最も残念に思われることは、死体を検査した医師の言葉が、信頼すべきところに記されてないことである。審問の行われるときに医師が立合わぬ筈はないのに、そのことがトリビューン紙にも書いてなければ、バーンスの著書にも書いてない。ただポオのみが医師の屍体検案書のことを書いている。ところがポオはクロムリン(小説ではボオヴェー君)がウィーハウケン(小説ではルール関門)の附近を捜索している際に、ちょうど漁夫等が、河の中に一つの死体を発見してたった今網で岸へ曳き上げたところだという知らせを受け、駈けつけて死体の鑑別を行ったように書いているけれども、実際は前に記したように、クロムリンは、死体発見の報知を自宅で受けてからホボーケンへ行ったのであって
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