糸のような汗が垂れた。
「うむ。殺《や》っつけてやろう」
彼はとうとう最後の言葉を呟《つぶや》いた。彼は玉島を殺して終おうと決心したのだった。
彼は玉島と引替えにするような、彼の安い生命を嘲《あざけ》った。然し、彼は他に生きる道はないのだ。あの狐のような玉島が赤い血潮を流しながら、彼の足許《あしもと》でヒクヒクと四肢を顫わして、息の絶えて行く哀れな姿を思い浮べると、彼は鳥渡《ちょっと》愉快だった。玉島を殺せば玉島の為に苦しめられている幾人かの人を救う事も出来るではないか。こんな気持もあった。そうしたいろいろの考えが、とうとう彼に玉島を殺す決心をさせたのだった。
こう決心すると、彼は妻の帰って来ないうちに、家を逃れ出る必要があった。妻の顔を見ると、決心が鈍るかも知れないし、妻に余計な苦痛を与えるような結果になるかも知れない。
[#ここから1字下げ]
「私はお前に永らく苦労をかけた。私はもう生きて行く道を知らない。私はあの吸血鬼のような玉島を殺して自殺する。お前一人なら、どうにかして生きる道を見出す事が出来るだろう。意気地のない亭主の事などは、永久にお前の記憶から抹殺して、生甲斐《
前へ
次へ
全23ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング