うしましょう」
「仕方がない。その時の事さ」
 友木は妻を安心させるように事もなげに云ったが、心のうちの不安は一通りのものではなかった。いや、不安は既に通り越していた。彼は恐怖に顫えていた。よし、玉島を殺した疑いは晴せるとしても、拾った金を横領したと云う事は隠すべくもなかった。もし、それを隠せば、玉島を殺したと云う嫌疑は高まるばかりである。事によると、玉島を殺した嫌疑も云い解けないかも知れない。
「あなた、どうかなすったの」
 伸子は友木が急に黙り込んだのを心配そうに訊いた。
「何でもないさ。疲れたんだよ。もう寝ようじゃないか」
 女中に床を取らせて友木は横になった。然し、不安に次ぐ恐怖は高まるばかりで、寝つく事は出来なかった。
 夜が明けてから、廊下を通る足音がする度に、もしや刑事がと胸をひしがれていた友木は、寝不足の眼を脹らしながら起き出て、急いで朝刊に眼を通した。
 そこには思いがけない幸運が待っていた。新聞には玉島を殺した犯人が早くも捕縛された事を報じていた。
「まあ、好かった」
 伸子は胸を撫で下しながら嬉しそうに云った。
 然し、友木は未だ十分に解放されていなかった。
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