った友木はあっと声を上げた。
「なあに」
 伸子は驚いて夫の顔を見上げた。
「た、大変だ。玉島が殺された」
「えッ」
 二人は夕刊を引張りこしながら、段抜きの記事を読んだ。
 夕刊の報ずる所によると、高利貸の玉島は今朝二階の一室に冷くなって横たわっているのを、雇人《やといにん》の聾の婆さんに発見せられた。玉島の胸には短刀が突刺っていた。兇行の時間は今暁一時|乃至《ないし》二時で、強盗の所為らしいとあった。
「まあ、驚いた。じゃ、私達の帰って直ぐ後で殺されたのね」伸子は喘《あえ》ぐように云った。
「うん。潜戸は開いていたし、玄関は締りはなかったし、強盗が這入ったんだね」
「初めはあなたが殺そうとし、次に私が殺そうとしたのを、救《たす》かって置きながら、とうとう三番目の強盗に殺されるとは、よくよく殺される運だったのね」
「うん、全く運のない奴だ」
「天罰ね。でも、私達が殺さないで好かったわ」
「しかし、俺達は疑われるかも知れない」
「本当ね。急にお金が這入って、急に旅行に出たりして、それに私達は玉島の所へ行っているんですものね。疑われるには道具立が揃い過ぎているわ。もし、警察へ呼ばれたらど
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