こっちに云い分があるぞ。おのれ、よくも永い間俺を苦しめたなッ!」
友木は拳を固めて、玉島がペコンと下げた横顔を張り飛ばした。
玉島はよろよろとして、情けなさそうに顔をしかめながら、
「あ痛! ああ、これがおつりの分かいな」
「何をッ!」
癪《しゃく》に障った友木はもう一つ玉島を張り飛ばした。
「伸子、さあ帰ろう」
友木は伸子を促がして、悠々と凱旋将軍のように、玉島邸を引上げた。
五
家に帰りついた友木は、簡単に伸子に金が手に這入った訳を話した。彼は然し拾った金をそのまま着服したのだとは云わなかった。思いがけなく大金を拾って、落主から礼金を貰ったのだと云った。伸子は無論それを信じた。
「好かったねえ」
彼女は喜びに溢《あふ》れた顔をして云った。然し、友木の顔は暗かった。
不安のうちに一夜を明かした友木は、翌朝早々伸子を促がして旅に出る事にした。彼は東京にじっとしているのが何となく恐ろしかったのだった。家主に滞っていた家賃を払い、身の廻りのものを整えると、二人は汽車に投じて湘南地方に向った。
然し、友木は未だ解放されなかった。
その夜、宿で夕刊を手に取
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