、云いたい事を吐《ぬ》かす。もう辛抱が出来ん。わしは告訴する」
「ふん、告訴でも何でもして見ろ。俺はもうお前なんか恐くないぞ」
「わしは恐うのうても、お上は恐いぞ」
「恐くない」
「阿呆云うな。牢へ這入らんならんぞ」
「構わない」
「無茶じゃ。無茶じゃ。そんな事云わんと、金を返えして呉れ」
「ふふん。そんなに金が欲しいか。金を返えせば文句はないんだな」
「金を返えして、大人しゅう引取って呉れたら、何にも云わん」
「よし、では金を返してやるから、証文を寄越せ」
「証文はお前の女房が破って終ったがな」
 玉島は情けなさそうな顔をして云った。
「よう、破った、ふん」
 友木は伸子を静かに抱き起して訊いた。
「お前破ったのか」
「ええ」
 死人のように蒼ざめた顔ではあったが、彼女は割にしっかり答えた。
「証文は破っても金高は覚えているだろう」
 友木は玉島に云った。
「うん、そら覚えとるとも」
「それじゃ云って見ろ。証文がなくなれば返えさなくても好いのだが、俺はお前見たいな卑《さも》しい人間と違って、そんな事は嫌いだ。払ってやるから、金高を云え」
「えっ、払って呉れる? 夢じゃないかいな。金高
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