勢い鋭く玉島に詰め寄せている。玉島は壁側に押しつけられて、両手を前に差し出しながら、訳の分らない叫声を挙げているのだった。
「伸子、止《よ》せっ!」
 友木は怒鳴った。しかし、伸子の耳には這入らないのか、只《ただ》一刺にと、足を一歩踏み出した。玉島はぎゃっと云う鳥の絞められるような声を出した。
 友木は伸子に飛ついた。右の手で、しっかり彼女の短刀を持った手を握った。
 伸子は激しく身を藻掻《もが》きながら振り返った。友木の顔を見ると、
「あッ! あなた?」
 と叫んで、短刀をガラリと落すと、張りつめた力を急に失なったように、ガックリと友木の胸に凭《よ》りかかった。
「無茶じゃ。無茶じゃ」
 危く生命を落す危険から逃れてホッとしながら、恐怖に蒼ざめた顔をしかめて、玉島は叫んだ。
「何が無茶だ」
 友木は憎悪に充ちた眼で蒼くなっている玉島を見ながら怒鳴った。
「何が無茶じゃて? こんな無茶な事が世の中にあるもんかいな。貸した金を返えしもせず、人を殺そうとするなんて、阿呆らしくてものが云えんがな」
「ものが云えなければ黙ってろ。貴様のような奴は殺しても好いのだ」
「無茶苦茶じゃ。謝りもせんと
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