に俺がやっつけているのだ。ああ、俺が逃したばかりに、お前は殺人の罪を犯したかも知れない。ああ、恐ろしい、どうぞ、未だ殺していませぬように。間に合いますように。
友木は譫言《うわごと》のように口の中でブツブツ呟きながら、ひた走りに走っていた。
四
ああ、駄目だ!
玉島の家の二階から燈火が射《さ》していた。潜り戸に隙があって、押すと訳なく開いた。
ああ、伸子は中に這入ったのだ。
友木は潜り戸を押し開けて、中庭を走りながら、もしやその辺に血に染《にじ》んだ短刀を持った伸子が気絶でもしてはいないかと、眼を忙しく動かした。が、何も眼には留らなかった。
玄関にも血の垂れたような痕はなかった。
未だ惨劇は起らなかったのか。伸子は無事か。玉島に組み留められたのか。ああ、それでも好い。どうか無事でいて呉れ。
友木は勝手を知った家なので、階段を駆け上って、玉島の応接室になっている部屋を目がけて突進した。
と、突如として、人の争う物音が響いた。
友木は鞠《まり》のように部屋の中に飛び込んだ。
見ると、伸子がどこで手に入れたのか、ギラギラ光る短刀を閃《ひら》めかして、
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