三足|後退《あとずさり》したのである。死体だ! 畳は滴《したゝ》る血汐《ちしお》でドス黒くなっている。
私の叫び声に、漸く火を消し止めてホットしていた人々がドヤ/\と這入って来た。
人々の提灯《ちょうちん》によって、確《たしか》にそれが惨殺せられた死体である事が明らかになった。誰一人近づくものはない。その中《うち》、誰かゞ高く掲げた提灯の光りで奥の間をみると、そこには既に寝床が設けられてあったが、一人の女と小さな小供が床の外へ這い出したような恰好《かっこう》で、倒れているのが見えた。間もなくそこに集った人々の口から、死者はこの家の留守番の夫婦と、その子供である事が判った。福島の一家は全部郷里の方へ避難して仕舞い、主人だけは残っていたのであったが、それも何でも今日の夕方に郷里の方へ帰ったそうである。
私は斯《こ》う云う人々のさゝやきに聞き耳を立てながら、ふと[#「ふと」に傍点]死体の方を見ると、驚いた事には、いつの間にか松本がやって来て、まるで死体を抱きかゝえるようにして調べているのであった。その調子が探訪記者として、馴れ切っていると云う風であった。
彼は懐中電燈を照しながら、奥
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