すがなあ。……それでどうでしょう、岩見が忍び込んだ理由、毒薬の入った菓子折を持って来た理由《わけ》はどうでしょう」
「その点は実は私も判り兼ねています」
青年記者松本はきっぱりした口調で答えた。
* * *
それから二三日して新聞は岩見の捕縛を報じた。彼の白状した所は松本の言と符節を合す如くであった。しかし彼もまた福島の家に忍び込んだ理由については一言も口を開かなかった。
其の後、私は松本に会う機会がなかった。私はまたもとの生活に復《かえ》り毎日々々戦場のように雑踏する渋谷駅を昇降して、役所に通うのであった。或日、例の如くコツ/\と坂を登って行くと、呼び留められた。見ると松本であった。彼はニコ/\しながら、一寸お聞きしたい事があるから、そこまでつき合って呉れと云うので、伴われて、玉川電車の楼上の食堂に入った。
「岩見が捕まったそうですね」私は口を開いた。
「とうとう捕まったそうですよ」彼は答えた。
「あなたの推定した通りじゃありませんか」私は彼を賞めるように云った。
「まぐれ当りですよ」彼は事もなげに答えた。「ときにお聞きしたいと云うのは、あの福島の宅《
前へ
次へ
全41ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
甲賀 三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング