うち》ですね、あれはいつ頃建てたもんですか」
「あれですか、えーと、たしか今年の五月頃から始まって、地震の一寸前位に出来上ったのですよ」
「それ迄は更地《さらち》だったんですか?」
「えゝ、随分久しく空地でした。尤も崖はちゃんと石垣で築いて、石の階段などはちゃんと出来ていましたが」
「あゝそうですか」
「何か事件に関係があるのですか」
「いや。なに、一寸参考にしたい事がありましてね」
 それから彼はもう岩見事件には少しも触れず、彼の記者としてのいろ/\の経験を面白く話して呉れた。そうしてポケットから琥珀《こはく》に金の環《わ》をはめた見事なパイプを出して煙草をふかしながら、自慢そうに私にみせて呉れたりした。
 彼と別れて宅へ帰り、着物を着かえようとして、ふとポケットに手をやると小さい固いものが触ったので出してみると、先刻《さっき》の松本のパイプであった。いろ/\と考えてみたが、これが私のポケットへ入り得べき場合を考えることが出来なかった。
 私は当惑した、何といって松本に返そうかと思った。それから幾日か松本に返そう/\と思いながら、遂にその機がなくそのまゝ過ぎ去った。
 或日一通の厚い
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