ります。即ち之が大気の圧力です。ですからもし大気の圧力が減ずれば水銀柱の高さは下るのは自明の理です。昨夜《ゆうべ》の二時頃は東京は正に低気圧の中心に入ったので、気象台の調べによれば、午後五時頃は気圧七百五十粍、午前二時は七百三十粍です。即ち二十粍の差が出来た訳です。即ち一方の水銀柱は十粍下り一方の開いた方の水銀柱は十粍上りました。そこで開いた方の口の水銀の上へ少し許りの硫酸を充《みた》して置けばどうでしょう。当然硫酸は溢《あふ》れる訳です。福島さん」松本は青くなって一言も発しない福島を振り返り、「あなたはあなたが僅《わずか》に数万円の金を詐取しようとする心得違いから、先ず第一に留守番の子供を殺し、次にその母親を殺し、遂には父親までを殺しました。そうしてあなたはあなたの恐るべき罪を青木さんにかけようとしている。余りに罪に罪を重ねるものではありませんか。どうです真直《まっすぐ》に白状しては」
福島は一耐《ひとたま》りもなく恐れ入って仕舞った。
検事は青年記者の明快なる判断に舌を巻きながら、
「いや、松本さん、あなたは恐るべき方じゃ、あなたのような方が我が警察界に入って下されば実に幸いで
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