岩見がこの白昼強盗事件の関係者である事を知った警部は、一層厳重に訊問したが、彼は何処《どこ》までも買物等をした覚えは一切ないと抗弁するのであった。しかし兎に角、現に賍品《ぞうひん》を懐《ふところ》にしていたのであるから、拘留処分に附せられる事となり、留置場に下げられた。
 所が又々一事件が起った。夜半《よなか》の一時頃、留置場の番人が見廻りの際、特に奇怪なる青年として充分注意する様に云い渡されていたので、注意すると、驚くべし、岩見はいつの間にか留置場から姿を消していた。
 警視庁は大騒ぎとなった。重大犯人を逃がしてはと直ちに非常線が張られた。然しその儘其夜は明けた。そうして午前十時頃|彼《かの》岩見は彼の下宿で難なく捕えられた。
 刑事は無駄とは思いながらも彼の下宿に張り込んでいると、十時頃彼はボンヤリした顔をしながら帰って来たのであった。
 彼の答弁は又々係官の意表に出たものであった。十一時近く、巡査が留置場に来て、一寸来いと云って連れ出し、嫌疑が晴れたから放免すると云って外へ出してくれた。夜も更けた事ではあるし、幸い懐に金もあり、且《かつ》はあまりの馬鹿々々しさに、一騒ぎ騒ごうと思
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