声を挙げたので、遂に曲者は目的を果さずに逃げたのであった。
支配人は曲者が逃げ出すと、急いで助かった宝石を金庫の中へ投入れて、金庫を閉めるや否や、曲者を追ったのである。
多くの社員が駆付た時には、兇漢は岩見の風を装い、支配人が負傷でもしたような事を叫びながら、部屋を飛び出したので、社員一同まんまと欺《あざむ》かれ、室内に這入って再び岩見をみるや唖然《あぜん》とした次第である。曲者は遂に見失ってしまった。然し支配人は兎に角宝石に間違《まちがい》のなかったのを喜んで、騒ぎ立てる社員を一先ず制して、自分の部屋に帰り、念の為再び金庫を開いて調べてみると、支配人が大急ぎで金庫に投げ入れた宝石の一つ、時価数万円のダイヤモンドが一|顆《か》不足していた。機敏な曲者は支配人が金庫へ入れる前に、既に盗み去ったと見える。
急報に接して出張した係官も一寸|如何《どう》して宜《よ》いのか分らなかった。支配人と岩見とは厳重に調べられたが、支配人の言は全く信用するに足るもので、岩見も当時殆ど人事不省の状態にあったのであるから、これ亦|疑《うたがい》をかける余地がなかったのである。
銀座街に於ける万引嫌疑者
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