た瞬間|背後《うしろ》で異様な叫声がした。それは倒れていた男岩見書記――の口から洩れたのであった。その時、曲者はつと入口の方へ退却した。次の瞬間に室に居た社員がドヤ/\と支配人室の入口に駆けつけた。其時、中から「支配人がやられた! 医者だっ!」と云いながら岩見が飛び出して来たのである。そして社員達は、室へ這入ろうとする途端、真蒼な顔をした支配人と鉢合せをした。
「曲者はどうした」支配人は叫んだ。何が何だか判らないのは社員達である。岩見は支配人がやられたといって飛び出して来る。次には支配人が曲者はどうしたと飛び出して来る。兎に角も中へ入った所の社員達は三度|吃驚《びっくり》した。と云うのは、そこには呼吸《いき》も絶え/″\になった岩見が倒れて居たのである。
 漸く判明した事情は、岩見に酷似した又は岩見に変装した兇漢が、正午で人気《ひとけ》少くなった社員室の間を岩見のような顔をして通りぬけ、覆面をした後、機会を待って居たのであった。そして支配人が金庫を開けるべく背をみせた瞬間、岩見に躍りかゝって、短銃《ピストル》の台尻で彼に一撃を喰わせ、次いで支配人に迫ったが、倒れた筈の岩見が呻《うめ》き
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