な事件である。この時ふと警部の頭に浮んだ事があった。それは岩見青年が××ビルディング内東洋宝石商会の社員であると云うのを聞いて、端《はし》なくも二三ヶ月|前《ぜん》の白昼強盗事件が思い出されたのである。早速岩見を訊問してみると、驚いた事には彼は事件に最も関係の深い一人であることが判った。
 白昼強盗事件と云うのはこう云う事件であった。
 花ももう二三日で見頃と云う四月の初旬《はじめ》であった。どんよりと曇った日の正午、××ビルディング十階の東洋宝石商会の支配人室で、支配人は当日支店から到着したダイヤモンド数|顆《か》をしまおうとして、金庫を開けにかゝった。支配人室と云うのは、社員の全部が事務をとっている長方形の大きな室《へや》の一部が凹間《アルコープ》になっていて、その室に通ずる方にしか入口はないのであった。そして入口の近くに書記の岩見が控えているのである。支配人が金庫の方へ向う途端に、何だか物音を聞いた様なので、振りかえると、覆面の男がピストルを突きつけて立って居た。足許には一人の男が倒れている。棒の様になった支配人を睨《にら》みながら、曲者は次第に近寄って、机の上の宝石を掴もうとし
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