って、彼はそのまゝ電車に乗って品川に至り、某楼に登《あが》って、今朝方帰って来たのだと云う。
「一体あなた方は」彼は不足そうに云った。「私を逃がしたり、捕えたり、全《まる》で私を玩具《おもちゃ》になさるじゃありませんか」
 ××巡査はすぐに呼び出されたが青年はこの方ですと云ったけれど、巡査の方では全然知らないと答えた。一方品川の某楼も取調べられたが、時間もすべての点も青年の云う通りであった。知能犯掛りも強力《ごうりき》犯掛りも、額を集めて協議した。その結果今回も以前の強盗事件のように、何者かゞ何にも知らない岩見を操っているのではなかろうかと云うことになって、岩見は無罪ではないかと云う説も多数になった。
 然しこの不幸な青年は遂に放免せられなかった。と云うのは××巡査が自分が変装した悪漢の為めに、利用せられたのを憤り、且は自己の潔白を証明するために、岩見の下宿を調べた所、一つの奇怪な符号を書いた紙片を発見したのである。そして宝石事件は証拠不充分で無罪になったが、窃盗《せっとう》事件は、兎に角現品を所持し、店の番頭達も岩見をみて当人である事を証明したのであるから、遂に起訴せられ禁錮二ヶ月に
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