――で、彼はいきおいよく飛びおりた。一瞬ののち彼はむろん街路に血にまみれて即死していた。
この方法はなかなか巧妙である。しかし、静かに考えてみると、最上階と一階のおなじ位置の部屋をかりうけて、これをまったく同一に飾りつけてほかから怪しまれないようにするにはそうとうの困難があり、かつ昏酔している人間を一人かかえて、一階から最上階までだれにもとがめられないで、はこぶことはよういなことではない。そのうえにこの方法の致命的欠陥というのは結果がぜんぜん偶然的で、必然性がないということである。というのは、眼ざめたBが註文どおり狼狽してくれればよいが、もし冷静に観察されると、まず第一に時計のとまっていることを看破せられるであろう。第二に窓をひらいたときに、それが一階でないということをさとられるおそれがある。そしてもっともおそるべきことはいったん看破られたが最後Bの陳述によってAは殺人未遂というのがれられない運命をになうにいたるであろう。
そこでおれは右の方法に一つの改良をほどこした。それはBにたいしてなんら強制力をもちいないことである。強制力をもちいさえしなければ、もしやり損なったさいもなんのと
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