して、どの階にいるのかわからないことを必要とするのだった。こうしておいてある夜AはBを一階の部屋に連れこんで、とつじょ彼の自由を拘束して、この部屋には自動爆発装置が敷設してあるといつわり、いまより三十分後正九時にはこの部屋は爆発して、お前は粉微塵になるのだと脅かしたのちに、彼に睡眠剤をあたえて昏酔させた。そうして昏酔しているBをかかえて、かねて用意してあった最上階の一室に連れこんで、時計を九時五分前に止めて部屋のなかにBをおきドアをとざして逃げさった。このときに時計は必要な時間で止めておかねばならない。なぜならばいつ眼ざめるかわからないからである。
 Bはふと眼ざめた。気がつくと手足をいましめられている。しかし、さいわいにそれはゆるんでいたので、さっそく振りほどいた。彼はしだいにAの脅迫の言葉を思いだした。(彼はむろん一階の部屋にいると思っている)彼はハッとして時計をみた。九時五分前! 爆発にはあますところ五分しかない。彼は狼狽してドアに飛びついた。しかし、ドアはびくともしない。彼の狼狽はその極にたっして、窓に飛びついた。ところが窓はさいわいにあいた。ここは一階であると彼は思っている。
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