にかかわらず、おれには忍ぶべからざる侮辱である。しかし、おれのいじけた性質と訥弁《とつべん》にたいする、彼のはなやかな性質と雄弁とは、おれを彼にたいして反抗を不可能ならしめて、つねに道化役者の地位においた。世人は彼の雄弁と諧謔とにみせられて、哄笑をするたびに、そのかげにおれという被害者がはぎしりしていることにぜんぜん気がつかなかった。いや、いまさらおれはこんなことをくどくどと書きつける必要はない。結論はかんたんだ。おれはSを憎む。殺さなければならないほど憎む。それはうごかすべからざる事実だ。問題は彼を殺すべき方法である。
おれは過去三ヵ月にわたって、あらゆる殺人方法について研究してみた。が、どの方法も確実性と絶対不発見性とを具有しているものはなかった。
ただ一つちょっと面白い方法だと思ったのは、外国人のかいた短い探偵小説だった。
それはAという男がBという男を殺さなければならなくなって、ある大きいビルの一階と最上階にまったくおなじ位置に各一室をかりうけて、それをまったく同様に飾りつけた。もし眼かくしして突然そのうちの一つに連れこまれたとしたら、眼かくしをとられた刹那《せつな》はた
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