尺の円筒形の建物のなかにこもったのをみたときには、博士は狂せりと嘆じた人もすくなくなかったほどで、私などもまったく博士の真意がくめなくて、いささか呆れた一人だった。
しかし、当の博士は、世人の非難や嘲笑にはいっこう無頓着で、孜々《しし》として蜘蛛の研究に没頭して、研究室のなかに百にあまる飼育函をおき、数かぎりなき蜘蛛の種類をあつめ、熱心に蜘蛛の習性その他を観察した。半年とたたないうちに博士のこの奇妙な研究室には、世界各地の珍奇な蜘蛛がみられるようになったのである。
半年を経過するころには健忘症の世人は、もう博士がこの奇妙な研究室に閉じこもって、蜘蛛の研究をしていることなどは思い出してみようともしなかったが、ある夜辻川博士を訪ねてきた友人の大学教授潮見博士が、この研究室から墜落惨死した事件があって、一時また騒ぎだしたことがあった。そのころには物好きな人たちはわざわざこの研究室をみにきたものだった。むろん辻川博士は容易に他人を室内へ入れなかったので、そうした人たちは地上から、五間も高くそびえている円形の塔を下から仰ぎみて満足するより仕方なかったのだった。
しかし、世間の人はすぐその事
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