蜘蛛
甲賀三郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)欅《けやき》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|踊り場《ランジング》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おにぐも[#「おにぐも」に傍点]
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辻川博士の奇怪な研究室は葉の落ちた欅《けやき》の大木にかこまれて、それらの木と高さを争うように、亭々《ていてい》として地上三十尺あまりにそびえている支柱の上に乗っていた。研究室は直径二間半、高さ一間半ばかりの円筒形で、丸天井をいただき、側面に一定の間隔でおなじ大きさの窓が並んでいた。一年あまり風雨にさらされているので、白亜の壁はところどころ禿げ落ちて鼠色になり、ぜんたいは一見不恰好な灯台か、ふるぼけた火見櫓《ひのみやぐら》とも見えた。私はそれを感慨ふかく見上げた。
一年前に物理化学の泰斗《たいと》である辻川博士がとつぜん大学教授の職をなげうって、まるで専門違いの蜘蛛の研究をはじめたときは、世間にかなり大きいセンセーションをまきおこしたが、さらに博士が東京郊外のこんな野なかに火見櫓のような研究室をつくって、地上三十
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