轄警察署から小浜信造宛に、
[#天から2字下げ]スグオイデコウ
 という電報が打たれた。
 午後二時過ぎ小浜信造はやって来た。色の蒼白い三十そこ/\の華奢《きゃしゃ》な青年だった。
 一旦警察署に出頭した信造は、司法主任以下に連れられて、現場の別荘に着いたが、お徳は信造を見ると、卒倒するほど驚きながら叫んだ。
「あれまア、旦那さま」
「あゝ、お徳さん」信造は馴々《なれ/\》しくいった。
「昨日はどうも失敬したよ。夕方に急に思い出した事があったので、黙って東京へ帰って終《しま》って――」
 司法主任の榎戸《えのきど》警部は信造に向って、意外という風に、
「じゃ、あなたは昨日こゝへいらしたのですね」
「えゝ」今度は信造の方で不審そうに、「お徳さんからお聞きにならなかったのですか」
「聞きました。然し、その人間が死んだ人間と同じ人間だと思っていましたので――」
「御冗談です。僕は死にやしません。こうやって生きてますよ」
「ふむ」流石《さすが》の警部も狐に撮《つま》まれたような顔をしながら、「兎に角、屍体を見て下さい」
 信造は屍体を一眼見ると叫んだ。
「あゝ、卓一だ」
「え、ご存じの方ですか
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