かさず指紋を取るぞと威かすと、奴は背後《うしろ》めたい事があるので、忽《たちま》ち顔色を変えて、フラ/\と倒れかゝりました。後は何の苦もなくスラ/\と白状しましたので」
「大した手柄だ」
「お賞めに与《あずか》って恐縮です。奴の白状した所によると、つまりこうなんです。信造と茅ヶ崎の別荘で会おうと約束したのもその通りで、信造が別荘に行って待呆けを食って、むしゃくしゃして、夕方に別荘を飛び出したのも、やはりその通りなんです。六時三分の上り列車に乗ったのは、正真|紛《まが》いなしの信造だったんです。それから先が違うので――立腹した信造はその足で直ぐ蒲田の永辻の家へ行って、居合した卓一を詰《なじ》ったのです。所が二言三言いっているうちに、信造の顔色が変って、そのまゝそこへ斃《たお》れて終ったんです。信造は以前から心臓が弱くて、いつ狭心症を起すか知れない状態だったんです。無闇に腹を立てゝ、汽車から降りると、空腹《すきはら》のまゝ永辻の家へ駆けつけたりしたのが悪かったんでしょうね。
 思いがけなく信造が死んだので、卓一も永辻夫婦も驚きましたが、こゝで三人は相談をして、卓一が死んだ事にして、卓一が信
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