って調べるから」
 と、信造は見る/\額に膏汗《あぶらあせ》を流して、フラ/\と刑事の肩に凭《もた》れかゝった。


          三つの理由

「死んだのはやっぱり信造だったんですよ」
 望月刑事は司法主任の榎戸警部に稍々《やゝ》得意そうに話していた。
 警部は感嘆したように、
「一杯食わされていたのか。然し、君はよく発見したね」
「偶然、全く偶然でした。渋谷の道玄坂で、ふと信造を見かけたのですが、奴がむつかしい連珠の問題を訳なく解いたので、ハッと気がついたのです。何しろ、信造という男は人嫌いの変り者で勝負事なんか一切やらない筈なんです。それに反して、卓一は何にでも手を出す男で、事件の起った時も連珠に凝っていたといいます。――信造が連珠! 可笑しいなと思った途端に、ふと思い出したのは先達《せんだって》の信造の態度でした。交際嫌いの変り者だというのに、実によくペラ/\とよく喋りました。その時はつい気がつかないで見過していたのですが、急にその事が頭に閃めいて――」
「然し、それだけでは十分じゃない――」
「えゝ、ですから試みに卓一と呼んで見ると、ぎょっとしたようでしたから、隙《す》かさず指紋を取るぞと威かすと、奴は背後《うしろ》めたい事があるので、忽《たちま》ち顔色を変えて、フラ/\と倒れかゝりました。後は何の苦もなくスラ/\と白状しましたので」
「大した手柄だ」
「お賞めに与《あずか》って恐縮です。奴の白状した所によると、つまりこうなんです。信造と茅ヶ崎の別荘で会おうと約束したのもその通りで、信造が別荘に行って待呆けを食って、むしゃくしゃして、夕方に別荘を飛び出したのも、やはりその通りなんです。六時三分の上り列車に乗ったのは、正真|紛《まが》いなしの信造だったんです。それから先が違うので――立腹した信造はその足で直ぐ蒲田の永辻の家へ行って、居合した卓一を詰《なじ》ったのです。所が二言三言いっているうちに、信造の顔色が変って、そのまゝそこへ斃《たお》れて終ったんです。信造は以前から心臓が弱くて、いつ狭心症を起すか知れない状態だったんです。無闇に腹を立てゝ、汽車から降りると、空腹《すきはら》のまゝ永辻の家へ駆けつけたりしたのが悪かったんでしょうね。
 思いがけなく信造が死んだので、卓一も永辻夫婦も驚きましたが、こゝで三人は相談をして、卓一が死んだ事にして、卓一が信
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