ぬ証拠は、実は私が模造品を造ります際に数の都合上どうしても、疵《きず》のあるのを一つ使わねばならないので、庇《ひさし》の蔭に眼のつかない所へ嵌《は》めたのです」
「全く。私もその疵のある真珠の事を云われる迄はどうしても置き換えられた事は信じられませんでした」と商会主は口を添えた。
佐瀬は早速商会主を呼んで、取り敢えず守衛の所へ行った。貴重品ばかりの所であるから、夜は特別に二人居て交代で不寝番《ねずばん》をする事になって居たのである。守衛は始めは中々云わなかったそうであるが、激しい詰問にとうとう白状した所は、二日|許《ばか》り前の晩夜中にガチャンと硝子《がらす》の破《こわ》れる音がしたのでハッと二人で詰所を飛びだすと、一人の曲者《くせもの》が将《まさ》に明りとり窓から逃げ出す所で、その窓硝子を一枚落したのであった。大急ぎで入口を開けて外へ出た時には既に逃走して居た。場内を見ると、真珠塔がいつの間にか箱から出され、棚から一間許りの所に置かれて居た。併《しか》し外には何の被害もなかったので二人相談の上、塔を箱の中に戻し、硝子は風で落ちた事にして知らぬ顔をして居たのであった。即ち守衛達は盗賊
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