位の程度迄似せる事が出来るか」と聞いたので、佐瀬は、「どうしても品が落ちますから、専門家にかかっては敵《かな》わないが、素人になら一寸見別けのつかぬ程度に出来ましょう」と答えたので、大変満足して、早速手附に二万円払い、尚期限を遅らしたり、真物《ほんもの》と充分似ない時には破約すると云う条件で帰って行った。それから佐瀬は二週間専心に此の製作に従事し漸く造り上げた。其間期限の事で一回花野氏から電話があり、こちらからも一度電話をかけたが留守であった。取引の日には早速花野氏が来て出来栄《できばえ》を見て大変喜び、早速残金を支払い自動車で帰ったのである。
それでこの仕事は無事すんだ訳であるが、それから二三日経った今朝の事、佐瀬は展覧会場へ行って相変らず自分の製作品に、人だかりの多いのを満足しながら、肩越しに真珠塔を一目見ると、アッと思わず顔色を変えたそうである。
「全く今朝は驚きました」佐瀬は口を開いた。「思わず人を掻《か》き分けて前へ出ました」
前へ出て能《よ》く見ると、一目見て直覚した通り、真珠塔はいつか模造品と置き換えられて居た。
「素人方には少しも御分りならないかも知れませんが、動か
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