が未遂の中に逃げたものと思って居たが、それは真物は既に運び去られ、今や偽物を運び入れんとした際に発覚したのであった。そこで二人は展覧会の事務所に届出《とどけ》いで、それから警視庁の方へ行ったのであるが、何分秘密を要する事で、遂に橋本に依頼する事になったのである。
「陳列箱の鍵は平生《へいぜい》誰が持って居るのですか」友は始めて口を開いた。
「二つありまして、一つは守衛一つは私が持って居ります」佐瀬は答えた。
「塔の重量はどの位ですか」
「三貫五百目です。大理石の台がありますから」
「成程不思議な事件だ。宜しい御引受けしましょう。先ず現場と守衛から調べねばなりませんね」
 商会主が喜んで佐瀬と共に辞去すると、やがて橋本は警視庁へ電話を掛けた。
「モシモシ、ハア高田君? ええ例の件でね一寸展覧会の夜間入場の便宜を計って貰いたい。ええ、マッカレーは昨日帰国した。ふん確かな人間? どうも真珠塔は買わないらしいって。ホテルの給仕が日本人の持って帰るのを見た。ああそうですか。花野は偽名らしいって。そうでしょうなあ。併し何か花野氏と縁故のあるものらしい。ふん、そうそう何でも大きな外国人らしい話も達者
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