り奴さんに疑いをかけて置いたのさ。そこで例の田村を探し出して叩いて見ると、変な奴が来て買って行ったと云う。眼鏡や頤鬚それに猫脊などは変相の初歩だからね。聞いたような声だとも云うし、ははあ、之は佐瀬だと感じたのさ。それにもともと、塔の事を知って居るのは何人もないんだからな。まあ大体|彼奴《きゃつ》と見たのさ。彼は始めから田村が何か不正の為めの註文と感付いたに違いない。それでそっと田村をつけて、あの米国人が買わなかったのを見て、之を譲り受け他日ゆっくり真物とかえようと思ったんだろうよ。罪は外国人と詐欺師が負う訳だからね。彼には共謀者はないようだから、塔は多分彼の家に隠されて居るに違いない。多分応接室だろうと思った。と云うのは戸棚や物置はすぐ探されるからね。そこで彼をここに待たして置いて、約束があるように云って上り込んで、部屋を探したのだ。所が腰羽目の寄木細工に一ヶ所|手垢《てあか》のついている所がある。ふと思いついたのが箱根《はこね》細工の秘密箱さ。そこでいろいろやって見ると、板の合せ目が少しズレて、そこへもう一枚の板が又ズレて来ると云う奴で、結局小さな穴があいてそこに釦《ボタン》がある。これを一寸押してみると壁が開くと云う仕掛で、あとは君の知っている通りさ」
[#地付き](一九二三年八月号)
底本:「「新趣味」傑作選 幻の探偵雑誌7」光文社文庫、光文社
2001(平成13)年11月20日初版1刷発行
初出:「新趣味」
1923(大正12)年8月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:noriko saito
2008年4月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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