品として、外国人に誇れるものを造りたいと予々《かねがね》苦心をいたして居りましたわけでございます。所が幸《さいわい》に、こう云う方面には非凡の腕前のある佐瀬君が来て呉れましたので、今日どうやら人様の口に乗るような品が出来ましたのでございます」
商会主の語る所は斯《こ》うであった。六月の二十日に展覧会が開かれて四五日も経《た》った頃、恰度世間で真珠塔の噂が頂点に達していた時分である。商会に二人の客があった。一人は外国人で、アメリカの富豪にして東洋美術品の蒐集家《しゅうしゅうか》マッカレーと云い、一人は一見外国人かと思われる堂々たる日本紳士で有名なる代議士|花野茂《はなのしげる》と云う名刺を示して商会主を驚かした。マッカレーは全然日本語に通じないようで、其の日本紳士は流暢《りゅうちょう》なる英語で通訳したそうである。要件は近々娘が結婚するので、七月十日頃の汽船で帰るが、その贈物に例の真珠塔が欲しいが値も高いし、それに会期中持ち帰る訳にも行くまいから、二週間以内に十万円位であの模造品を造って呉れまいかと云うのであった。商会主は佐瀬技師と相談の上八万円で引受けたのであった。日本紳士は、「どの位の程度迄似せる事が出来るか」と聞いたので、佐瀬は、「どうしても品が落ちますから、専門家にかかっては敵《かな》わないが、素人になら一寸見別けのつかぬ程度に出来ましょう」と答えたので、大変満足して、早速手附に二万円払い、尚期限を遅らしたり、真物《ほんもの》と充分似ない時には破約すると云う条件で帰って行った。それから佐瀬は二週間専心に此の製作に従事し漸く造り上げた。其間期限の事で一回花野氏から電話があり、こちらからも一度電話をかけたが留守であった。取引の日には早速花野氏が来て出来栄《できばえ》を見て大変喜び、早速残金を支払い自動車で帰ったのである。
それでこの仕事は無事すんだ訳であるが、それから二三日経った今朝の事、佐瀬は展覧会場へ行って相変らず自分の製作品に、人だかりの多いのを満足しながら、肩越しに真珠塔を一目見ると、アッと思わず顔色を変えたそうである。
「全く今朝は驚きました」佐瀬は口を開いた。「思わず人を掻《か》き分けて前へ出ました」
前へ出て能《よ》く見ると、一目見て直覚した通り、真珠塔はいつか模造品と置き換えられて居た。
「素人方には少しも御分りならないかも知れませんが、動か
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