りょうが》する壮麗な真珠塔を出陳したのである。諸君も既《すで》に御承知の事と思うが、私の見た所では塔の高さは約三尺|彼《か》の大和薬師寺《やまとやくしじ》の東塔を模したと云われ、三重であるが所謂《いわゆる》裳階を有するので、一寸《ちょっと》見ると六階に見える。各階|尽《ことごと》く見事な真珠よりなり、殊《こと》に正面の階《きざはし》を登って塔内に入らんとする所に嵌《は》められているものは、大きさと云い形といい光沢《つや》と云い世界にも又あるまじき逸品で、価格三十八万円と云うのも成程と思われる。展覧会開催以来新聞は随分此記事で賑《にぎ》わされたので、ある新聞によると、東洋商会はM商店の製作部の腕利《うできき》の技師を買収して、此の真珠塔を造らしめたのだと云い、ある新聞によると、その技師は不都合の廉《かど》があって、M商店を放逐《ほうちく》せられたのであると云う事であった。私は新聞で知り得た事を、知れる限り友人に話した。折柄|呼鈴《ベル》が激しく鳴って、書生が二人の紳士を伴って入って来た。
「私が橋本です」友は立ち上って云った。「こちらは私の友人の岡田《おかだ》君です」
「申し遅れまして」と五十|恰好《かっこう》の赤顔にでっぷりと肥《ふと》った紳士は丁寧に礼をしながら、「私は下村でございます」
「私は佐瀬でございます」三十を少し越したかと思われる頭髪を綺麗に別《わ》けた、色白の背の高い紳士は云った。友は椅子をすすめながら、
「どうも暑くなりまして。……して御要件は」
「それがその、ええちと他聞を憚《はばか》る事でございまして」商会主は汗を拭きながら云った。
「その点は御心配に及びません。岡田君はいつも私と一緒に働いて呉《く》れる人で、私同様と御思い下さって差支えありません」
「さようでございますか」と商会主は漸く落ち着いて、「実は何でございます。今回私共が×××省御主催の展覧会に出品いたして居りまする真珠塔につきまして、誠に不思議な事が起りましたので、早速警視庁へ御相談に来《あが》りました所、あちらではそう云う事は却って貴君《あなた》に御願い申すがよかろうと云う事で、甚《はなは》だ御迷惑ながら御依頼に上った次第でございます。新聞ではいろいろに申しますが、別に私共はM商店に対抗して立つのどうのと云う事はございませんが、私は元来こう云う事が好きでございまして、東洋独特の工芸
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