ければ、その人の方は罪になりませんよ」
「そうでしょうか」
谷田は半信半疑だった。
「然し妙だな」
石子はふと思い出したように云った。
「保険会社の方は警察の報告を聞くでしょうから、半焼か全焼か分る筈ですがね」
「それがその」
谷田は云い悪くそうに、
「何でも警察の刑事だったか巡査だったかも、十円か二十円で買収したんだそうです」
「そうですか」
石子は苦笑した。
「どうもね、仲間内にも時々心得違いの人が出るので困りますよ」
「尤も何ですな、こう申しちゃ失礼ですけれども、随分むずかしい時には生命がけの仕事をなさるのに、報いるものが少いのですから」
「そうですね」
石子は苦笑を続けながら、
「それもそうですがね、要するに社会の裏面の事を扱っているから誘惑が多いんですよ。悪い事をした方で直に買収にかゝるんでね」
「素人はどうも推測を確実なものゝように誇張するから困るな」
谷田の家を出ると、石子刑事は思わずこう呟いた。
彼の云った事も充分参考になるにはなったが、別に目撃した訳じゃなし、有力な証拠があるではなし、支倉に対する嫌疑は濃厚になるけれども、要するにそれだけである。
「本
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