馬を追払いながら、定次郎を引立てゝ行った。
彼に喧嘩を吹きかけられた対手は見物が次第に散々《ちり/″\》になっても、そこを動こうともせず、やがてツカ/\と石子の傍へ近寄った。
「あの、ちょっとお伺いしますが、今あの男の云った支倉と云うのは支倉喜平の事じゃありませんか」
「えゝそうです」
石子は吃驚して彼の顔を見た。
「あなたは警察の方なんですね」
「そうです。神楽坂署のものです」
「では支倉の事につきまして、少しお耳に入れたい事があるのですが」
「え、じゃあなたは支倉を御存じですか」
「えゝ、よく知って居るのです。彼の為にひどい目に遭った事があるのです。支倉は放火をしたんじゃないかと思うのです」
「え、え」
石子刑事は思いがけない収穫に顔色をかえんばかりに喜んだ。
「そんな話なら往来ではなんですから。――えーと私の家へでも来て頂きましょうか。牛込ですが」
「私の家は直ぐそこですから」
洋服男が云った。
「拙宅までお出下さいませんか」
路々話したところに依ると、彼の名は谷田義三《たにだよしぞう》と云って、丸の内の或る商事会社に勤めているのだった。
家は淡路町の裏通りにあった。
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