彼は家の前に辿りつくと、這入る前に隣の二階家を指した。
「建て代りましたがね、之が支倉の家だったのです」
彼の家はこぢんまりとした平家で、綺麗好きと見えて、よく整頓した一間へ通された。
「さあ、随分古い事です。やがて十年になりましょうか。路々鳥渡お話した通り隣から火事が出ましてね」
彼の云う所によると、火事は支倉の家を半焼にしてすみ、彼の家は幸いに類焼を免れたのだったが、原因が放火だというので、思いがけなくも彼が嫌疑を受けて、一週間警察に止め置かれたのだった。
「一週間目に支倉が来て口添えをして呉れたので、やっと放免せられました。実に馬鹿々々しい目に遭ったものです。所が当時は口添えをしてくれたり、いろ/\親切にして呉れたので、支倉を有難いと思いましたが、今考えて見るとどうも一杯嵌められたらしいのです」
火事の出た日の前日の夜、彼が鳥渡支倉の家を訪ねると、支倉は奥の一間でしきりに書物の手入をしていた。何でも久しく抛って置いたので、書物にカビが生えたと云って揮発油を綿に浸ましてせっせと拭いていたのだった。
「所が可笑しいんですよ」
谷田は一寸息をついだ。
「尤もみんな後で考え
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