ゃぎ出した。
「やあ、旦那、いゝ所へお出下せえました。さあ野郎、警察の旦那が見えたぞ。もういくらジタバタしたって駄目だ。どっちが白か、黒か、ちゃんと裁きをつけて貰うんだ。何を笑ってやがるんでえ」
 彼は見物に向って呶鳴り出した。
「この旦那はお前、支倉《はせくら》の野郎をとっ掴まえて下さるんだ。おや未だ笑ってやがる。手前達は支倉を知らねえのかい、あの悪党の支倉を」
 定次郎は次第に呂律《ろれつ》が廻らなくなって来た。
 往来の真中で、而も大勢の見物に向って、へゞれけに酔った定次郎が、支倉々々と喚き出したので石子刑事は驚いた。
「おい/\、下らん事を云うな。おい、黙れったら」
 けれども定次郎は愈※[#二の字点、1−2−22]調子づいた。
「何でえ、支倉が何でえ。あんな野郎に嘗《なめ》られてこの俺様が黙って引込んでられるけえ。さあ来い。うむ、支倉が何でえ」
 定次郎はとうとう往来の上へ潰れて終《しま》った。
 折好く巡回の巡査が通りかゝったので、石子は刑事の手帳を示しながら、
「こいつはね、鳥渡知ってる奴なんです。三崎町にいるんですがね、すみませんが保護をしてやって下さい」
 巡査は弥次
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