\しながら面白そうに眺めている人もあったが、仲裁に這入ろうと云う人はなかった。
所へ通りかゝったのは石子刑事だった。彼は岸本の報告を受取って、今朝から本所に出かけ尋ね廻ったけれども、目的の町には勿論どの町にも大内などゝ云う写真館は見当らなかった。落胆して牛込の自宅へ帰る途中、小川町で電車を降りて、縁日で賑っている中を何か獲物でもないかとブラ/\歩いていたのだった。
「喧嘩か」
そう呟いた彼は人混みを分けたが身体が小さい方なので、容易に中が見えない。
「何ですか、喧嘩ですか」
彼は隣の人に聞いた。
「酔払がね、大人しそうな人に喧嘩を吹きかけているのですよ」
「そいつは気の毒だ。仲裁に這入りましょう。ちょっと前へ出して下さい」
そう云って石子はだん/\前へ出たが、管を巻いている酔っ払いの顔を見るとあっと驚いた。彼は支倉の行方不明になった女中の叔父、小林定次郎だった。
「おい、いゝ加減にしろ」
石子は定次郎の肩を掴まえた。
定次郎はひょろ/\しながら酔眼朦朧として、石子刑事の顔を見据たが、嬉しそうに叫んだ。
「やあ、旦那ですか」
そうして大人しくなる所か、急に元気づいて一層はし
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