睨みながら、考え込んだ。
やがて彼は再び仔細に吸取紙を調べ出した。彼の口辺には微笑が現われて来た。彼は何を思ったか一枚の封筒を取出して、吸取紙と並べて机の上に置いた。それからペンを取って、尚も考え考え封筒の上にペンを動かした。
「本所区菊川町二十三番地大内写真館、うん之でよし」
意地の悪そうな笑みを洩らして書上った封筒を眺めていたが、やがて吸取紙で押取ってピリピリと二つに裂くと、クルクルと丸めてポンと足許の屑籠へ拠り込んだ。
彼は呼鈴を押した。
ミシ/\と岸本が上って来た。
「先生、何か御用ですか」
「うん、ちょっと現像をやろうと思うのだが、薬品は揃っているだろうな」
「はい、揃っています」
「それじゃ、君は少しこの辺を片付けて置いて呉れ給え」
「はっ、承知しました」
浅田は暗室に這入ると、直ぐに現像を初めようとはせず、光線を導き入れる赤色硝子の嵌《はま》った小窓から、そっと部屋の様子を覗っていた。
岸本はせっせと部屋を掃除していた。そのうちにふと屑籠に気がつくと、彼は屈んで中から丸められた封筒を取出した。彼ははっとしたようだったが、やがてジロッと暗室の方へ眼をやって、背中
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