を小窓の方へ向けて、机の上を整頓するような風をして、そろ/\と封筒を拡げた。
岸本の相好はみる/\崩れた。彼は嬉しさを隠すことが出来ないで子供のように大きく眼を瞶《みは》った。
やがて封筒を再びクル/\と丸めると、屑籠の中へ押込んで、何喰わぬ顔で又掃除を始めた。
暗室の中では浅田はバットを揺り動かしながら考えていた。
「ふゝん、やっぱりきゃつは廻し者だ。油断のならない事だ。だがきゃつ、素人で幸いだて」
やがて現像を終えて、定着バットの中へ乾板を入れると、浅田はのそ/\暗室から出た。
岸本は掃除をすませて、窓際の椅子にかけてポカンとしていた。
「掃除が出来たら下へ行って好いよ」
浅田は云った。
「はい」
岸本の姿が見えなくなると、浅田は机の前にどっかと腰を下して呟いた。
「きゃつから刑事の耳に這入るのが、明日中として、刑事の無駄足を踏むのが明後日か、ふん、二、三日は余裕がある訳だな」
放火事件
「な、何でえ。何んだって人に突当りゃがった」
この寒空に薄汚い半纏一枚の赤ら顔のでっぷりした労働者風の男が、継の当った股引を穿《は》いた足許もよろ/\と、
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