さ」
「成程恐い顔ですね。之が奥さんですか」
「そうだよ。そんなのが油断がならないのだよ」
 眼の前の沢山の写真をいじくっていた岸本は、ふと一葉の写真に眼を落とすとあっと驚いた。

 支倉一家の写真をいじくっているうちに、ふと一葉の写真に眼を落として、岸本はあっと驚いた。それは小林貞子の写真だった。
「どうしたの」
 お篠は怪しんで聞いた。
「何、何でもないのです」
「おや、やっぱり若いのが好いと見えるね」
 おかみは岸本の持ってる写真を見ると、ニヤリと笑いながら云った。
「そう云う訳じゃありません」
「お生憎さま、岸本さん、その娘はもう死んだよ」
「えっ、死んだんですって?」
 岸本はギクリとした。
「大そう驚くね」
 お篠はジロリと岸本を見ながら、
「確な訳じゃないが死んだろうと思うのさ。それは支倉さんの女中なんだよ」
「あゝ、女中さんですか」
「それがね、三年前に行方不明になって終《しま》ったのよ」
「へえ!」
「未だに分らないらしいが、まあ死んだんだろうね」
「そうですね、三年も行方が分らないとすると、死んだのかも知れませんね、どうして行方不明になったんですか」
「それがね、そ
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