《はせくら》の奥さんの所へでも行ったんだろう」
「え、支倉さん?」
「お前さん知ってるのかね」
「えゝ、私前にキリスト教信者だったもんですから、名前だけ知ってるのです」
「そうかい。支倉さんはそう云えば耶蘇だね」
「支倉さんの奥さんは中々偉いそうですね」
「何、偉いかどうだか分るもんか」
 おかみは忽ち機嫌が悪くなった。
「御主人が留守だからって、主人を呼んじゃ相談ばかりしている。馬鹿にしてるじゃないか」
「支倉さんは留守なんですか」
「どこかへ逃げているんだよ」
「え、何か悪い事でもしたんですか」
「どうもそうらしいんだよ。あんな人に係り合ってゝは、末々きっと損をするに定《きま》っていると私は思うんだよ」
「へえ――、そんな悪い人ですか」
「人相が好くないんだよ。見るから悪相なの。尤も奥さん見たいに虫も殺さない顔をしていたって当にはならないけれど」
「そんなに悪い人相なんですか」
「鳥渡お待ち、写真があるから」
 お篠はゴソ/\机の抽出を探していたが、やがて一袋の古い写真を取出した。
「どうだね。之がみんな支倉さんの分さ」
「大へんありますね」
「古くからの馴染だからね。之が支倉さん
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